25回 受賞作品アニメーション部門Animation Division

大賞

優秀賞

ソーシャル・インパクト賞

新人賞

審査委員会推薦作品

審査講評

  • 水﨑 淳平
    アニメーションディレクター/神風動画代表取締役
    リアルタイムで 共有する 現代での作品評価
    第25回の受賞作も、「メディア芸術」という冠に恥じないバリエーションとバランスの良さが顕著で、自身も審査期間に国際的かつ多様な表現のアニメーションに多く触れることができ、大変有意義でした。
    大賞に輝いた『The Fourth Wall』は、「どうやってつくったのかまったくわからないがそれはさておきおもしろい」という「体験」を視聴者へ届ける作品として見事に完成されていました。前述のとおり作品のバリエーションや表現方法は幅広くなりましたが、上位入賞作のほとんどはある面で共通しています。それは制作者の意識が作画力や技術力の誇示に向かうのではなく、視聴者を重視しているという点です。
    一方、審査するうえで課題として感じたところもあります。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』をはじめ、マンガ原作やテレビシリーズからスタートし劇場版へとつながる導線すべてが感動やヒットへ見事に結びついている作品を、応募された劇場版部分のみで評価しなければならないというジレンマがそのひとつです。興行記録の樹立などで世間を賑わせたという点においては、一昨年度に新設されたソーシャル・インパクト賞が相応なのでは?とも思われましたが、コンテンツの前後関係を含まずとも単体でバズっていたという記憶が新しい『PUI PUI モルカー』がその点では優位となりました。
    上記の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』等の作品は、ファンに向けて提供される視聴体験レベルの高さは素晴らしく、審査委員全員が原作の出発から劇場版公開までの導線すべてをリアルタイムに体験し、その体感も含めて審査範囲としていくことができれば、また違った結果があったように思います。リアルタイムでの共有・共感が重視されている現代において、その瞬間に起こるムーブメントに乗り評価をしていく仕組みを模索することは、さまざまなコンペティションにおいても課題となってくるでしょう。
  • 藤津 亮太
    アニメ評論家
    「テーマ性」を いかに評価すべきか
    第25回文化庁メディア芸術祭に審査委員として初めて参加することになった。今回の体験はまず自分にとって非常に勉強になる体験であった。普段接することが少ない海外の短編作品に触れられることから始まり、自分の価値判断を言語化する努力の必要性、ほかの審査委員の評価基準を理解するおもしろさなどとてもためになることばかりだった。審査そのものについては、初めての体験なので比較対象がないが、スムーズに進行したのではないだろうか。それは審査委員のなかに明確な判断基準があったからというだけではなく、受賞作にどのような作品が並べばよいか(アニメーション部門としての姿勢・メッセージが見えてくるか)というイメージが共有されていたからではないかと感じた。ゴールのイメージの共有があればこそ、非常に繊細なバランスの上に成り立った選考結果であるにもかかわらず、スムーズに「収まるところに収まった」形に決まったのだと思う。このあたりも個人的によい経験だった。
    審査を通じて個人的に感じたのは「テーマ性」をいかに判断するか、の難しさだ。エンターテインメント作品は、テーマそのものはシンプルなことが多い。応募作でいうなら、日本のメジャー流通作品はその傾向が強い。これそのものは悪いことではない。ただ短編の短いからこそ表現可能な強烈なテーマを扱った作品と並べると、先鋭的ではない、という印象も拭えない。こうした「賞」というのは「表現領域の拡張に資する作品であることが重要な要素であるから」シンプルなテーマはどうしてもそこだけでは評価しづらくなる。それそのものは作品の欠点ではないにもかかわらず、だ。審査における「テーマ性」の重みはどうあるべきか。そこを自問しながらの審査でもあった。
  • 須川 亜紀子
    横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院都市文化系教授
    パンデミックで変容 した今こそみえる、 生きるということ
    今年度アニメーション部門では、総計565の応募作品があった。新型コロナウイルスのパンデミックがまだ終焉しておらず、不自由な環境のなかでの制作は想像以上に困難だったと思われるが、昨年度の応募総数を上回ったのは、我々審査委員にとって嬉しい悲鳴であった。
    テーマやモチーフとして、「死」を取りあげた作品が多かったというのが総合的な印象だった。それは世界中を震撼させたパンデミックや政治不安の連日のニュースなどで、文字どおりの「死」を、物理的だけでなく映像を通じて日常的に体験したことが関係しているのかもしれない。しかし、「死」そのものを描くというよりも、「死」のイメージを通して、ヒューマニズムや「生」というものを捉え直すというような、批評性の高い作品が目立った。
    そんな多 様な作 品 群のなかで、大 賞の『The Fourth Wall』は、そのユニークなモチーフもさることながら、映像の奇想天外さが耳目をひいた。「the fourth wall(第四の壁)」というのは、演劇用語でフィクション(物語)と観客を隔てる境界線という意味であるが、いち家族の関係性という小宇宙が、視点ショットや渦巻のような回転映像で、私たち観客の世界へ侵食してくるのがおもしろかった。子どもの視点で見る洗濯機の母親、冷蔵庫の父親……そして滴る水滴の表現も秀逸だった。優秀賞は劇場アニメーション『幾多の北』、短編アニメーション『Letter to a Pig』、劇場アニメーション『漁港の肉子ちゃん』、テレビアニメーション『Sonny Boy』と、バラエティに富んだラインナップとなった。前者2作品は、人間の苦悩、死、不安など負の部分を主要テーマにしながら、もがきつつも前進する意思が感じられた作品でもあった。後者の2作品は、エンターテインメント性を保持しつつも、若者にとって、生きるとは何か、世界をどう捉えるのか、という大きなテーマに通じる作品だと思う。
    ソーシャル・インパクト賞は、モルモットを車にするというユニークなパペットのキャラクターを使ったストップモーション・アニメーション『PUI PUI モルカー』が受賞した。子どもも大人も、思わず「現実にこういうことあるよね」と思うような話題、そしてオチの連続。パペットを使った約3分のショートアニメシリーズがここまでバズるのは初めてという意味でも、まさにソーシャル・インパクト賞に相応しい作品である。
    新人賞はテレビアニメーション『オッドタクシー』と短編アニメーション『骨噛み』と『Yallah!』が受賞した。こちらはすべて「死」が内包されているが、そのアウトプットの仕方はさまざまである。『オッドタクシー』は、主人公の両親の事故死、アイドルの卵の死をめぐる謎と、現代社会が抱える問題をつなげるミステリー・エンターテインメントとも見える作品である。ネットオークション、ゲーム課金、SNSなど便利で身近な世界がはらむ恐怖にもハッとさせられた。『骨噛み』は、火葬後に骨を食べる風習をモチーフにした、子ども=作者の内的世界を描いた作品。点描と光の表現のインパクトが、死とトラウマをめぐる物語を巧妙に幻想的にさせ、引き込まれた。『Yallah!』は、1982年のベイルートにおける内戦をモチーフにした3DCG作品。戦争という「死」が身近な世界にもかかわらず、プールで泳ぎたいという少年と焦る大人の対比が興味深い。泳ぎたいという子どものささやかな願いすら、大事件になる不条理を我々に提示してくれる。
    3年間審査委員を務めさせていただいたが、この短期間においても実にさまざまなアニメーションの技術、表現の変遷を垣間見ることができたのは、大変名誉であり、幸せな時間であった。受賞には至らなかった作品のなかにも、受賞作品にひけをとらない素晴らしい作品もたくさんあった。ここで挙げさせていただいた受賞作品以外にも32もの審査委員会推薦作品がある。ぜひ実際に鑑賞して、自分の「推し」作品を見つけてもらいたいと思う。
  • 権藤 俊司
    アニメーション史研究者/東京工芸大学准教授
    フォーマットの 枠組みを超えて
    今回初めて審査委員として参加して、本芸術祭の特異な立ち位置を改めて意識させられた。それは多種多様なプラットフォーム(映画/テレビ/配信等)やフォーマット(長編/短編/シリーズ/ミュージックビデオ等)のもとで成立した作品群を一括して審査対象とする点である。評価軸をどこに置くかという審査上の困難は避けがたいが、各フォーマットのあり方について考えさせられる機会として貴重な体験であった。
    全体を通じてまず挙げるべきは、フォーマットとしては「古い」側に位置する劇場長編分野の充実である。物語やテーマの取り扱いについては平準化・ステレオタイプ化の傾向も散見されたが、映像面では作画・美術・撮影のコンビネーションがきわめて高いレベルで各作品が拮抗しており驚かされた。個人的には、洋画を意識した絵づくりと演出によって従来の商業アニメの「リアリズム」を超えた地点に到達した『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』と、邦画のプログラムピクチャーや演劇をパッチワークしてカオティックなエネルギーを放った『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の2本が印象に残った。両者とも実写映画を参照枠とすることで、かえってアニメーションのみが持ちうる力を発揮していた点が興味深い。
    テレビシリーズに関しては、標準的な1クール30分ものとしては異例のアートスタイルと展開を見せた『Sonny Boy』が群を抜いていた。ソーシャル・インパクト賞の『PUI PUI モルカー』については、欧米と比較してマイナーなポジションにとどまってきた日本のストップモーション・アニメーションの受容状況を塗り替えた意義を高く評価したい。
    最後に、より作家志向の強い個人作品の分野で、重鎮の山村浩二が『幾多の北』で初の長編を手掛け、彼の短編群と変わらぬ緊張を持続してみせたことにも触れておきたい。短編作家の長編への進出は世界的にも増加傾向にあり、その意義と可能性は今後の課題となっていくことだろう。
  • 大山 慶
    プロデューサー/株式会社カーフ代表取締役
    多様な場で 制作された 挑戦的な作品群
    本年度の応募作品は全体的に優れた作品が多く、受賞作品の選定に悩まされた一方、結果的には、長編、短編、テレビシリーズなど、それぞれの分野から受賞作品や推薦作品をバランス良く選出することができた。
    大賞を受賞したイランの短編作品『The Fourth Wall』は、実写と多様なアニメーション表現を複雑に融合し制作された作品で、「動くはずのないものが動く」というアニメーションの原始的な心地良さを強く感じさせた点や、これまでに見たことのない映像体験を生み出しているという革新性が高く評価された。
    優秀賞を受賞した『Sonny Boy』はテレビシリーズとしてはかなり攻めた内容と演出で、非現実的な世界を緊張感のある独特のリアリティで描くことに成功している。同じく優秀賞の長編映画『漁港の肉子ちゃん』は、「誇張」を上手く使うことで、生々しく悲劇的になりそうな題材をユーモラスで見やすく感動的にしている。いずれも「アニメーションならではの映像表現によって物語を語る」ということに意識的な作品である点が評価された。『幾多の北』は、これまで数多くの短編作品を生み出してきた山村浩二監督による初の長編作品で、長編映画の定石を外す構成や演出が審査委員たちを驚かせた。
    新人賞の受賞作品にも力作が多く、特に、点描と透過の効果が美しく印象的だった『骨噛み』には、新たな作家誕生の喜びと今後への期待が膨らんだ。『PUI PUI モルカー』は、キャラクターデザイン、ストーリー、動きの良さはさることながら、短い子ども向けのテレビ番組が、ネット配信やSNSなどにより、国籍や年齢を問わず幅広い層に広がったことから、ソーシャル・インパクト賞の受賞となった。各分野でアニメーション表現の可能性を広げる作品が数多く制作されていることを再確認でき、大変有意義な審査会となった。