文化庁メディア芸術祭
第22回

アニメーション部門

優秀賞

大人のためのグリム童話 手をなくした少女

劇場アニメーション

セバスチャン・ローデンバック [フランス]

©︎ Les Films Sauvage

作品概要

19世紀初頭にグリム兄弟によって編纂されたドイツの民話集『グリム童話』に初版から収録されている「手なしむすめ」を、新たに長編アニメーションとしてよみがえらせた作品。ヒロインの少女は悪魔の企みで両腕を奪われ、数奇な運命に翻弄されながらも、不思議な精霊の力に守られて、自分だけの幸せを見出していく。王子との結婚の先に少女を待ち受ける展開は、原作とは異なるラストを迎える。セバスチャン・ローデンバックは長編でありながらすべての作画をたった一人で手掛け、ヒロインの生命力にあふれたしなやかな生き方を、現代的な視点で描いた。本作で特徴的な作画技法「クリプトキノグラフィー」は、筆を使って、絵コンテもないまま即興ですばやく描いていく手法。線そのものが命を持ち、呼吸するかのような美しい映像は新鮮な驚きを観客に与える。

贈賞理由

とても新鮮な表現で、アニメーションとは何だったのかを考えさせられる作品だ。封建的な従順さを受け入れ手を失った少女が、離散、出会い、結婚、出産、逃亡などを経て、親子で自立し新天地へ旅立つ過程がエモーショナルな映像で語られる。簡略化された映像が2年前の優秀賞作品『父を探して』を思い出させる。意識的に抽象化した完成度の高い『父を探して』に対し、本作は未完の荒々しさが醸し出す情感に心打たれる。監督一人で長編映画をつくる過程で編み出された手法が、動画として絵を描くことであった。日本のアニメーションは1秒を8コマの絵の動きで表現するという省略法を生み出したが、本作は1コマでは部分を描き、動画として繋がったときにその絵が現れるという手法をとっている。この荒く不安定な動画は主人公の感情を揺らす表現ともなっている。本作は情報過多なアニメーションに慣れ親しんだ人にこそ観て欲しい、映画の余白に何かを描きながら。(西久保 瑞穂)

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