文化庁メディア芸術祭
第21回

アート部門

優秀賞

水準原点

映像作品

折笠 良 [日本]

© Ryo ORIKASA

作品概要

戦後を代表する詩人であり、シベリア抑留の経験をもつ石原吉郎(1915-77)の詩「水準原点」を約1年にわたって粘土に刻印し、ストップモーション・アニメーションの技法で制作した映像作品。次々と沸き起こる白い粘土の波は徐々に大きくうねりだし、やがて「詩」が1文字ずつ現れる。文字は波紋をつくって現れては波に飲み込まれていくため、鑑賞者は1文字1文字を噛みしめるように鑑賞しなければならない。さざ波のシンプルな反復が内包するドラマチックさを、クレイアニメーションの表現が引き出している。作家は、オスカー・ワイルド『幸福の王子』、萩原朔太郎『地面の底の病気の顔』などの文学作品をモチーフに、書くこと/描くことを運動=アニメーションとして提示する映像を制作してきた。斬新な水の表現と言葉の発生を捉える視点が高い評価を受けた。

贈賞理由

アニメーション技法を用いた映像作品の歴史には、その技法の特性から声や文字をテーマにした傑作が多い。言語とイメージの発生についてさまざまな探求が続けられてきたその歴史のなかに、この『水準原点』は新たな位置を見出しただろう。折笠は一編の詩と向き合い、言葉の現前そのものを表現している。繰り返しやってくる波のうねり、そしてその波頭の執拗なうごめきは驚異というしかない。海原に刻み込まれる言葉に、さらに渦が巻かれていく。その海原が、24コマなり30フレームなりの単位で撮影されていくさまは、アニメーションの根源的歓びと、壮絶な身体的痕が残されたドキュメンタリーとしての感動がある。同時に感じるのは、映像の抜本的な欲望としての水の表現だ。優れた映像作家は、それぞれ自分の水の描写を持っているが、折笠の水の表現も、映像が成し得るひとつの奇跡ではないだろうか。言葉の海。渦巻くイメージの海原に彼は船出したのだ。(石田 尚志)


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