文化庁メディア芸術祭
第21回

アート部門

優秀賞

進化する恋人たちの社会における高速伝記

メディアインスタレーション

畒見 達夫/ダニエル・ビシグ [日本/スイス]

© 2017 Tatsuo Unemi and Daniel Bisig

作品概要

人間社会を模した進化生態系シミュレータが自動的に作り出す、高速で展開する人生ドラマを鑑賞する作品。シミュレータ内の仮想空間に存在する数千もの個体は、男性が角ばった形状、女性が丸い形状、子どもは男女それぞれの形状で小さく、そして「もの」が三角形で表現される。シミュレーション内の時間の進行は10日間を1ステップとし、人の一生は約1分半で計算され、誕生、恋愛、離別、死を繰り返す。各個体は、異性の姿と好みの遺伝子を持つ相手に求愛するため、異性から恋愛対象とされるような見た目に進化する。同性に恋をする個体も存在し、時には「もの」に恋をする個体も現れる。作品には個体が動き回る様子と、数個のサンプル個体の人生の出来事を記述した文章が表示される。同時に、発話合成を使ってそれらを読み上げ、産声、男女の音声による求愛の言葉、そして葬送の鐘の音が重なった効果音とともにスピーカから出力される。無機質でロジカルなシミュレーションによって、私たちが営む人生のサイクルを客観的に見ることができる。

贈賞理由

進化論によって美の起源を説明しようとする立場がある。当然それはコンピュータ上に生態系や社会をシミュレートすることによって検証可能なはずである。本作は実際にそれを行った研究として第一の意義を持つ。しかしながら遺伝子の交換と複製と淘汰という進化論上のイベントは、セックスと出生と死という切実な人生の主題でもある。本作に前述の意義以上の冗長があるとしたらその点で、喧しい人声と葬送の鐘の音の重なりが、1分間に最大で8000篇生成される人生の物語のごく一部の標本から発せられているという事実に唖然とする。瞬時に表示され消えていくテキストは、題名どおり高速伝記であり墓碑銘でもある。固有名が割り当てられたり、離別も記述されたりする仕組みによって、単なるシミュレーションやメディアアートにとどまらない、大量性に裏打ちされた新種の写実主義文学あるいは既存の文学批判として本作を鑑賞できる。となれば感慨もひとしおだ。(中ザワ ヒデキ)


back to top