文化庁メディア芸術祭
第22回

マンガ部門

優秀賞

夕暮れへ

齋藤 なずな [日本]

©︎ Saito Nazuna
作品概要

40歳でマンガ家デビューし、現在70歳を越えた作者の20年ぶりの単行本『夕暮れへ』。1992年刊行の『片々草紙』(話の詩集)より8作品と、2012年に発表された「トラワレノヒト」「ぼっち死の館」を収録。普通に生きる人々の日常を自然体で表現した作品群のなかでも、直近の2作品は、深い洞察力で人間の煩悩を描き、個々のあるいは人間社会の条理と不条理がない交ぜとなった現実感溢れるドラマが展開される。「老い」を独自の視点で捉えた「トラワレノヒト」は、著者の長年の経験に則って、肉親の老いと介護、そして看取りまでを冷徹な視点をもって描き出し、人の尊厳について考えさせられる内容にまで昇華させた。「ぼっち死の館」では、かつてニュータウンとして賑わい、現在は一人暮らしの老人が集まる古い団地を舞台とし、棘のあるユーモアを盛り込んだ老人同士のリアリティのある会話を交えながら、「孤独死」というテーマに誠実に向き合った。

贈賞理由

寡作な実力派として知られる作者の10編。90年代に発表され、単行本『片々草紙』(1992)からの再録となる8作品もそれぞれ味わい深いが、ほぼ20年経って描かれた近作「トラワレノヒト」は、客観的な事実と、母の主観(妄想)との繋げ方が見事で、気づけば老婆の不本意な人生への憤怒に満ちた内面に引き込まれ、圧倒される。「ぼっち死の館」は、団地に住まう一人暮らしの高齢者たちの生き生きとしたやりとりを通じて、誰もが一言ではくくれぬ人生を経て今ここにいることが胸に迫る。特筆すべきは2作に共通した不思議なユーモアで、ちぐはぐな会話などの笑いが、重い題材をするりと読ませてくれる。長いブランクのあと発表された2作の充実ぶりは、年齢を重ねることが作家として衰えではなく、深まりになり得ることを示した。優秀賞にふさわしい作品集である。(川原 和子)


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